FUMONIN Hikaru's Artistic Days

Web投稿などで活動するアマチュア作家・小説家で、オケなどで活動するアマチュアのチェリストです。

バッハの頭髪はチリチリパーマの総白髪?

 学校の音楽室などに飾ってある、バッハなどの作曲家の肖像画の頭を見ると、真っ白で、かなりきついパーマがかかっています。あれは、どういうこと? 音楽の授業では教えてくれないし、意外に知っている人は少ない。

 答えを先に言ってしまうと、あれはカツラです。燕尾服を着て、頭にはカツラを被るのがヨーロッパの正装なのです。

 ベートーヴェンよりも前の時代の作曲家たちは、王侯貴族や教会のお抱え楽団で演奏する職人でした。雇い主の要望に応じて演奏をするし、行事などのために作曲もするというスタイルです。そういう高貴な人たちの前で演奏するので、正装をしていたわけです。

 指揮者のことを「マエストロ」と呼びます。これを日本では「巨匠」と訳していますが、もともとの意味は職人の「親方」くらいのニュアンスのものです。

 クラシックの演奏家が燕尾服を着る習慣は残りますが、カツラは省略されるようになりました。

 現在でも、正式な場では、正装をしていることがあります。以前、国際司法裁判所の法廷がニュースで放映された場面を見たことがありますが、原告代理人の弁護士らしき人は、燕尾服を着て白いカツラを着けていました。

 モーツアルトが生きている時代。1789年にフランス革命が起こり、革命のうねりが他国へと伝播していきます。それに伴い、時代の主役は、王侯貴族から市民へと変化し、楽団の雇い主は王侯貴族から都市の自治体などへと変化します。

 余談ですが、モーツアルトが子どものころ、神童をアピールするために父親に連れられて、各国を旅しました。ハプスブルク家の宮廷を訪れたとき、当時7歳のモーツアルトは、女帝マリア・テレジアの末娘のマリア・アントーニアに求婚したという有名な話があります。マリア・アントーニアは、フランスのブルボン家ルイ16世と政略結婚します。名前もフランス風にマリー・アントワネットと呼ばれます。彼女の末路は、皆さんご存知のとおりです。

 バッハが活動の中心としたライプツィヒの町には、バッハの立派な銅像があります。これも、やはりカツラを被っていますね。

 この銅像ですが、上着の左ポケットが裏返しになってます。子沢山のバッハの家計は苦しく、スッカラカンだったというジョークらしいです。


ライプツィヒのバッハ像

 職人なので身分は高くありませんが、ルネサンス以来の芸術を重んじる風潮はあって、著名な作曲家は尊敬される存在でした。ただ、バッハは、今でこそ音楽の父などと呼ばれ、もてはやされていますが、存命時は、田舎の都市でちょっと有名なおっさんくらいの感じでした。

 現在につながる学問・芸術の端緒はルネサンスにあります。音楽も同じで、まずはイタリアから始まります。当時の音楽の中心はイタリアでした。アレグロ、フォルテなどの音楽用語がイタリア語なのは、ここから来ています。

 ロマン派の時代になると、バッハの音楽は忘れ去られてしまいます。

 ですが19世紀の後半になってくると、民族自治の思想が広まり、国民国家の概念が生まれます。政治学でいうところのネーション・ステイト・システムというものですね。簡単に言ってしまうと、民族=国民が国家を形成し、一体不可分の関係になったものです。

 そうなったことで、各国では、音楽に関しても民族の伝統に根差したアイデンティティ求め始めます。例えば、チェコの音楽の父はスメタナで、これをドヴォルザークが開花させたといった感じです。音楽の主題にも、民族音楽が使われるようになります。

 そんな中で、メンデルスゾーンがバッハのマタイ受難曲の復活公演を行い、バッハの音楽が息を吹き返します。結果、ドイツでは、音楽の父はバッハだということになっていったのでした。

 私個人的には、お国事情を脇において考えると、現代につながる交響曲弦楽四重奏曲などの原形を作ったのはハイドンなので、音楽の父はハイドンなのではと思うのですがいかがでしょう? まあ、ハイドンは、音楽の母という言葉もあるらしいですが。

 音楽についても、国の独自性を、という流れができてくると、音楽用語もイタリア語ではなくて、自国語を使うようになっていきます。ドイツなら、シューマンから後の人たちなどですね。

 気持ちはわかるのですが、関係のない日本人からすると、これが面倒くさい。例えば、マーラーは、楽譜へ書き込む指示が多くて、細かいことで有名なのですが、ネットで検索すると、彼の指示の日本語訳のページがかなりヒットするくらいです。ですが、そう簡単ではない。これは違うんじゃないか、という訳がかなりある。ドイツ語の微妙なニュアンスを簡単に伝えられるなら、プロの翻訳家はいらないというところなのでしょうね。