運命! 運命! 運命!
先週から、オケの地方公演の練習が始まりました。とりあえず、全曲の譜読みをやったところで、今週は、メインプログラムとなるベートーヴェンの交響曲第5番運命を集中的に練習しました。
この曲は、ある意味有名過ぎて、意外に演奏会で取り上げられない曲なのですが、地方公演では何度もやっていて、今回が3回目くらいの感じになります。ところが、この曲。何度やっても、凄いなと思います。
まずは、有名な第1楽章ですが、ジャジャジャジャーンというたった4つの音からなる動機で7割か8割がた構成されています。そういう意味では、メロディーがないのです。常識的には、4小節かける4で16小節くらいのメロディーがあるものです。それが、運命の第1楽章では、ひたすらジャジャジャジャーンの繰り返しです。
その発想は、当時の常識からまったくかけはなれたもので、よくぞこんな曲を書こうと思ったものだと驚くばかりです。
1960年代頃から、スティーブ・ライヒなどの作曲家が、ミニマル・ミュージックというパターン化された音型を反復させる手法で作曲を始め、作曲界の大きな潮流となりました。個人的には、運命の第1楽章はミニマル・ミュージックの走りなのでは? と思っています。ですが、初演されたのは1,808年なのですよ。100年以上先取りしていると考えると「すごい」としか表現のしようがありません。
チェロ奏者としては、以前に指揮者の先生が言っていた話を思い出します。その先生は、大学時代は副科でコントラバスをやっていたそうですが、ベルリンフィルの演奏を生で見たときの低弦楽器がとくにかくすごかったということでした。中でも弓を飛ばす技術がすばらしく、軽々と優雅に弓を飛ばして、松脂がフワッとまっているようだった、というお話がとても印象的でした。
運命の第3楽章の中間部のフガートの主題を、まずは低弦が提示するのですが、ここの部分を演奏する度に、その話を思い出します。
これは、技術的には、スピッカートというやつになりますが、初心者があこがれるけれど、なかなかにハードルが高い技術の典型ですね。コツはいろいろあるようですが、感じ方に個人差があるようで、こうすれば絶対飛ぶみたいなことはなかなか言えません。
ゴーシュ弦楽器という楽器屋さんのHPに丁寧な説明があるので、これはとてもためになります。興味のある方は、参考になさってください。
ここの説明にもあるのですが、弓のバランスが悪いと絶対に飛ばないので、どうしてもできないという方は、弓を変えるのも手かもしれません。
運命の3楽章は、曲想からいっても、フワッと飛ばす感じではなく、かなり重い感じになります。モーツアルトのディベルティメントの伴奏のように、軽くて優雅な感じではないですね。同じスピッカートでもかなりニュアンスに差があります。
あとは、お国柄もあるみたいで、ベルリンフィルはかなり重厚な感じですが、フランス系のオケなどになると、もっとライトな感じのようです。
また、運命の話に戻りますと、もう一つ大きな特徴があって、3楽章から4楽章へ切れ目がなくアタッカで続くところです。
モーツアルトやベートーヴェンの時代の演奏会のプログラムというのは、現代とかなり趣が違っていて、多種多様な曲を入れ替わり立ち替わりやるような感じでした。交響曲も、楽章を続けて演奏するのではなくて、バラして演奏するのが普通でした。これを2つくっつけてしまったところは、また画期的な試みだったんですね。逆に、現在の演奏会で、交響曲をバラして演奏することなどないので、想像しにくいですが。
で、短調の3楽章からPPの橋わたし部分を通って4楽章のハ長調の輝かしい冒頭へ至る部分が、爽快なのですよね。暗くて長いトンネルを抜けると、そこに輝かしい世界があった、みたいな感じは、川端康成の「雪国」の冒頭を思い出させます。
4楽章の明るい世界を表現するために、ベートーベンは交響曲で初めてトロンボーンを使いました。また、ピッコロも効果的に使われているのが印象的です。
最後に盛り上がって、速度が速くなり、倍テンポになるところもぞくぞくしますね。
そんな感じで、運命は、ベートーヴェンの画期的なアイデアがそこかしこに仕込まれた曲なのでした。
もし、冒頭しか知らないという方がいらっしゃったら、ぜひ最後まで聞いてみることをお勧めします。