FUMONIN Hikaru's Artistic Days

Web投稿などで活動するアマチュア作家・小説家で、オケなどで活動するアマチュアのチェリストです。

休符で始まるリズム ~ブラームスの得意技~

 今度の定期演奏会でやるブラームス交響曲第2番の第4楽章の冒頭付近に印象深いリズムがあります。

 冒頭、Pで始まり、消え入るようなデクレッシェンドで、そのまま静かに収まるかと思いきや、スビート(突然)フォルテの音型が静けさを唐突に破ります。 

youtu.be

 その音型の頭が八分休符なのです。ブラームスも、頭が休符で始まるリズムは得意なのですが、他の作曲家でも、見かけるリズムです。

 この音型を見る度に思い出すのが、とある古い映像のこと。

 指揮者の小沢征爾さんが、まだボストン交響楽団音楽監督をやっていた頃。タングルウッド音楽祭で、若手の指揮者の指導をしている映像があります。そこで、ウェーバーの魔弾の射手序曲の指導をしていたのですが、同じような音型がでてくるのです。

 そこで、小沢さんは、若手の指揮者に、休符のところで息を止めると、入りが遅れるので、止めるなと指導していました。これは演奏家ならなおさらで、休符のところは、「ウッ」と息を止めがちになるのですが、そうすると体が緊張して、リズムが遅れがちになります。

 では、どうするのかというと、休符のところで、息を吸うのです。心得ている指揮者の方ですと、息を吸う音が聞こえますし、それが一つの合図にもなるのです。

 アルバン・ベルク=カルテットが録音したブラームス弦楽四重奏曲のCDでは、頭が休符リズムのところで、第1ヴァイオリン奏者が息を吸っている音がよく聞こえます。プロにとっては、常識なのですね。

 第4楽章の中盤、やはり休符で始まるブラームスらしいリズムがあり、ちょっとしたクライマックスを作っています。

Brahms: Symphony No.2 / Seiji Ozawa Saito Kinen Orchestra (2009) - YouTube

 このリズム、休符で始まるリズムへ向けて、盛り上がっていくのですが、例によって、4/4拍子に、3拍子のリズムをはめ込んだヘミオラというやつです。しかも、ヘミオラの一番最後の音型は、八分音符から3連符へ変化し、かつ、最後で八文音符に戻して急ブレーキを踏み、緊迫感を煽ります。

 そして、頂点だと予測される1拍目の強迫を休符にするという裏切り行為に、誰もがつんのめりそうになります。ブラームスは、2拍目にアクセントを書いていますが、これは一種のシンコペーションなので、2拍目はいやでも強調されるのです。

 まさに、ここの四分休符のところこそ、息を吸わないと演奏者としては持ちません。

 しかし、よくぞ、こんなリズムを考えつくものだと感心します。慣れないアマチュアは、いっそ変拍子にしてくれればいいのに、と愚痴をいいます。気持ちはわからないではないですが、これを変拍子にしたら、ブラームスじゃない。演奏し慣れてくると、これがまた、たまらない魅力なのです。