FUMONIN Hikaru's Artistic Days

Web投稿などで活動するアマチュア作家・小説家で、オケなどで活動するアマチュアのチェリストです。

ショパンとチェロのお話

 今、個人レッスンで、ショパンチェロソナタをやっています。今日、ちょうど1楽章が終わって、次回は2楽章。

 1月に発表会があって、2曲候補を用意していました。

 1曲目は、ピアソラのル・グラン・タンゴ(Le Grand Tango)。チェリストロストロポーヴィチピアソラに委嘱して作曲したチェロとピアノのための作品です。

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 ピアソラは、もともとクラッシク志望の作曲家でした。当時の世界の芸術の中心はパリ。彼は、ストラヴィンスキーへ弟子入りを願い出ますが、「君はタンゴを続けた方がいい」と断られ断念します。お隣ブラジルの作曲家、ビラ・ロボスがパリへ留学して、活躍したのと対照的です。

 といいつつ、ピアソラの作品は、ストラヴィンスキーバルトークなどのクラシック音楽のテイストを多く取り入れています。もともとのタンゴのエキゾチックな音楽に、複雑なリズムや変拍子なども使って前衛的要素もあります。そこがクラシックの音楽家にうけるところでもあるのでしょう。ピアソラにはまってCDを発売しちゃってる演奏家も多いです。かく言う、私も、その一人だったわけです。

 発表会では、結局、この曲をやりました。ですが、この曲。チェロの休みが7小節しかない。譜めくりができないので、初めて暗譜で演奏しました。

 タンゴ独特のグルーブ感もなかなか出せない。技術的にも、クラシックではポルタメント(ある音から次の音へ移る際に指を滑らせる技法)ができるだけ目立たないように弾くことが多いですが、タンゴでは、表現のために、あえてかけるなど、弾き慣れていない技法も使われていて、慣れるまでたいへんでした。

 それで、もう1曲用意していたのが、ショパンの「序奏と華麗なポロネーズ」(Introduction et polonaise brillante)Op.3。ショパンが若い時の作品です。

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 で、この曲はチェロパートが地味なので、ピアノパートと入れ替えた編曲版で演奏されることが多く、何種類かあるようです。元々、ショパンがピアノで弾くことを想定していた華麗なパッセージをチェロで弾くので、相当な難易度の高い曲です。せっかく用意していたので、発表会が終わった後は、この曲をレッスンでやりました。時間はかかりましたが、その分成長した気はします。

 ショパンチェロソナタは、昨年の夏ごろにもやっていたのですが、発表会の練習のため中断していたものを再開した形です。

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 器楽の作曲家は、ヴェートーヴェン以来の伝統なのか、いろいろなジャンルの曲を書くことが多いです。が、ショパンは、圧倒的にピアノ独奏作品ばかりですし、ショパンといえばピアノ曲の作曲家のイメージが強いです。

 そんな中で、若い時の作品ですが、チェロとピアノの二重奏を書いているのは、意外な感じがします。そのほかにも、ヴァイオン、チェロとピアノのトリオも書いています。ショパンはチェロが好きだったのではないか、という説もありますが、どうなのでしょうか? その後は、チェロが入った作品を、長い間書いていません。

 チェロソナタは、恋人のジョルジュ・サンド破局を迎えた後の最晩年の作品です。ショパンは、フランショームという名チェリストと懇意にしていました。晩年は、結核で体調も悪化するし、金銭的にも困窮したりしていたところを、フランショームに援助してもらいます。

 そのお礼というニュアンスもあって、最晩年に再び室内楽作品を書くことになったのでした。曲は、ショパンの名前で発表されていますが、彼は、チェロの演奏技術には詳しくないので、フランショームの助言もかなり入っていると推測されています。

 ショパンは、チェロとピアノによる「悪魔ロベール」の主題による大二重奏曲を書いているのですが、こちらは合作として発表されています。

 このフランショームさんですが、12のカプリースなどが、今でもチェロ用の練習曲として出版されています。チェロを学習している人間なら、名前は聞いたことがある人です。

 と、そんないきさつがあって、ショパンとチェロという意外な組み合わせが、再び実現したのでした。

 チェロという楽器ですが、独奏楽器として本格的に認知されるのは、19世紀も終わり近くになってからです。なので、ロマン派の作曲家のチェロソナタというのは、とても貴重なものです。

 あくまでもショパンの曲なので、ショパンのテイストで弾かねばと思うのですが、パッセージは、やはりショパンっぽい。つまり、ピアノ風のパッセージなので、これをチェロでショパンっぽく弾くには、どうしたらいいのだろう? 結構、悩むところです。 

 ロストロポーヴィチアルゲリッチがCDを出しているのですが、あんなにゴリゴリ弾いたらショパンじゃない、と私は思う。ショパンは、もっと繊細な人だったはずです。話は戻りますが、ロストロポーヴィチが弾いているル・グラン・タンゴも、ちょっと違うと思う。あれは、タンゴじゃない。

 そんなわけで、いろいろな録音を聴いてみるのですが、まだ決定版には出会えていないのでした。

 話は変わるのですが、ピアニストの作曲家では、ラフマニノフがやはりチェロソナタを書いています。これは偶然の一致なのか? 何か不思議な因縁を感じます。