FUMONIN Hikaru's Artistic Days

Web投稿などで活動するアマチュア作家・小説家で、オケなどで活動するアマチュアのチェリストです。

細かいことは、忘れる ~ブラ2のお話~

 昨日、9月の定期演奏会の曲の練習がありました。しばらく、地方公演の練習をしていたので、しばらくぶりです。

 R.シュトラウスの薔薇の騎士は難しいので、練習し直して臨んだのですが、ブラームスの第2交響曲をやって、ビックリ。1カ月ちょい前に練習したことを、かなり忘れちゃってる!

 ブラームスの曲は、凝った臨時記号が多い。部分的に転調して、そこが聞いていてカッコいいところでもあるのですが、演奏していると、かなりトリッキーなので、楽譜を見ていたとしても、覚えていないと対応が難しい。

(おっと! ここは♮だった! フィンガリング、どうしてたっけ?)

 弦楽器は、二人一組でプルトを組むので、楽譜に個人的なフィンガリングは書けない。フィンガリングは、人それぞれですからね。そこが、悩みでもあります。

 でも、私は、個人の楽譜にも、ほとんどフィンガリングは書きません。フィンガリングの組み合わせは何通りも考えられるし、いろいろ試しているうちに自然と決まってくるからです。だから、練習初期の頃は、間違えることも多いです。

 戸惑いがちなのが、第2楽章。ロ長調(♯が5つ)という珍しい調性で、そもそも弾き慣れていない。中間部でテンポは変わらないものの、3連符がベースで進行し、音符が細かくなる。ここも臨時記号が多い。

(あらっ! 音が違うじゃん!)

 ♯2つに転調しているのを忘れてましたぁ。ごめんなさい🙇

youtu.be

 第2楽章は、いきなりチェロのメロディーから始まる。さすがに、そこは間違いませんでしたよ。これ、実はブラームスさんお得意の強迫ズラしのリズムです。4分の4拍子の4拍目(アウフタクト)から始まっているのです。数え方も4123|4123……という感じで進行していくのですが、突然、1234に変わったりします。でも、2楽章はテンポが遅いので、ついていくのは、さほど難しくない。

 リズムが凝っているのは、1楽章ですね。強迫ズラしあり、ヘミオラ(ベースの拍子と異なる拍子感のリズムを入れ込む作曲技法)ありで、感覚的に覚え込ませないとついていけない。あとは、慣れもありますけどね。

 1楽章は4分の3拍子なので、ここに2拍子のリズムを入れこむのは、ヴェートーヴェンの第3交響曲エロイカ)に代表される典型的なヘミオラです。ブラ2の場合、この2拍子のリズムが3個セットになって、拡大された3拍子になっていたりするところが、ベートーヴェンと違うところです。

 リズム的には一番の難関なのは、強迫ズラしのリズムが、フガート風になっているところですね。

 ボーイングも結構変更があって、それも戸惑いました。ある程度練習が進まないとボーイングも決まらないです。

 うちのコンミス(女性の場合、「コンサートマスター」ではなく、「コンサートミストレス」といいます。ファーストヴァイオリンの主席奏者のことです)は、弾いてみてしっくりくるまでボーイングを変えます。でも、それをいちいち教えてはくれない。要は、見て盗めということですね。あとはヴィオラもチェロと同じ動きをすることが多いので、こちらにも合わせるし、セカンドヴァイオリンにも必要があれば合わせます。

 なので、チェロのトップ奏者は、練習の時に指揮者やコンミスばかりを見ているわけにはいかず、他のパートのボーイングにも注意をむけていなければならないので、とても大変なのです。

 コントラバスは、だいたいチェロのボーイングに合わせる感じにはなっていますが、実は仲が悪い。簡単に言うと、弓の長さが違うので、チェロでできることが、コントラバスでは難しかったりするからです。コントラバスの場合は、割り切っている場合も多くて、合わさずに独自路線をいくことも、しばしばあります。

 一方で、R.シュトラウスの薔薇の騎士ですが、div.(ディヴィジ:一つのパートをさらに分けて違う音やパッセージを弾かせること)が多い。通常、ディヴィジは、2つ程度のことが多いです。この場合、普通はプルトの表(客席に近い側の人)と裏に分かれます。このとき、パート譜に一段で書き切れないときは、2段に分けて書かれ、表が上の段、裏が下の段を弾きます。

 R.シュトラウスさんは、他の曲でもそうなのですが、div.が多く、しかも単純な表/裏よりも複雑なパターンが出てきます。

 例えば、1・2プルトとその他に分かれ、さらに1・2プルトの中で表/裏に分かれるといった感じです。私は、今回、2プルトの裏を弾きますので、このパターンのときは、上の段の下の音を弾きますが、単純な表/裏のときは、下の段を弾くといった感じで、どの段を弾くかがコロコロと変わるのです。こればかりは、慣れるしかありません。さらに細かいdiv.もあって、パート譜は最大で4段になっています。

 前のブログでも書いたとおり、R.シュトラウスさんはチェロの高音域まで酷使するので、ヘ音記号・テナー記号・ト音記号と頻繁に変わります。

 で、やってしまった。ヘ音記号のところをテナー記号と思って、一瞬だけ弾いちゃいました。5度違いなので、ハモるんですが、かってに曲を変えるのはダメ。これでは「のだめ」になっちゃいます。

 こんな話は、アマチュアならではのこと。パート譜も数小節先くらいまでしか見れていないのです。プロの方は、全然違います。職業なのですから、事前準備はきちんとやっているし、そもそもブラームスの第2交響曲などのメジャーな曲は、何十回も演奏しています。

 以前、NHK交響楽団コンサートマスターの方が、パート譜はどのあたりを見ていますか? という質問に答えていました。答えは、3段くらい先を見ています、ということでした。ほぼ暗譜しているということだし、ひとつのメロディーの全体を見渡して、どこをどう表現するのかということを見据えているということです。さらに、コンサートマスターは、指揮者はもちろん、要所要所で鍵となるパートの奏者とアイコンタクトをとりながら演奏しています。それを知ると、どんなに上手だといってもアマチュアとプロでは、天と地ほどの差があるのだと、思い知らされます。

 とはいえ、地方公演が来週に迫ってきました。それまでは、そちらに集中するとして、定期演奏会に向けては、その後に頑張ります。

 

 

第5回空色杯500文字以上の部で、拙著をご紹介いただきました

 小説大好きぺんぎん系VTuberの天野蒼空(あまのそら)様に、YouTube配信で作品をご紹介いただきました。ありがとうございました。暖かいコメントもいただけて、とても嬉しいです。

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 「ブラ3」は、ブラームス交響曲第3番のことです。知らない人は、当然知らないわけで、あえて謎ワードをタイトルに使ってみました。

 何でも略すのが日本人の性質のようですが、実は、こういう言い方をするのはアマチュアだけなのだそうです。

 以前、プロの指揮者の方が、こういう略語には、ついていけないとボヤいていました。プロの方は、「ブラームスの第3交響曲」とか、調性を使って「ブラームスのF-dur交響曲」などと言うみたいです。

 とはいえ、わからないものはわからない。私も、「ウンチカ」と聞いたときは、さっぱりわかりませんでした。正解は、ヴェルディの「運命の力」序曲のことなのだそうです。

 

 

 

 

小説の公募は、かなり面倒くさい

 公募へ出す作品の提出〆切が、いよいよ今月末に迫ってきました。今まで、WEB上の公募へは出したことがありますが、紙で提出するのは初めてです。

 構想を考え始めてから約9カ月。とりあえず書き始めてから半年以上。だが、読み返してみると、やはり自信がない。とはいえ、構成をドラスティックに修正する時間はないので、もう観念するしかありません。

 現在、表現ぶりのチェックや誤字脱字の修正をしているところです。

 まず面倒だったのが、上限が文字数ではなく、原稿用紙換算であること。探してみたら、WEB上に原稿用紙換算ツールというものがあって、これを使っていました。しかし、精度が低い。私の癖で、ルビを結構使うので、使った分だけズレたりします。

 結局は、Wordで執筆して、その原稿用紙設定機能を使って数えることにしました。ただ、こちらだとルビを振った部分が1文字に圧縮され、少なめに見積もられますが、WEBツールよりはましです。

 今、最後の校閲作業をしていますが、PCの画面上だとどうしても、限度がありますね。Wordだと見にくいので、PDFにしてみたり、PDFをさらにKindleに読み込んでみたりしていますが、十分ではない感じ。

 最終的に、紙に印刷してチェックをしようとして驚きました。40文字×30行のA4サイズで139ページあるのですが、かなりの厚さがあってビックリです。やってみないと分からないものですね。で、やはり紙の方が断然に見やすい。印刷している際中に、早速、誤字を発見したところです。

 そして、「登場人物一覧」を初めて作りました。作りながら思ったのが、意外に時間がかかったこと。後回しにして、締め切りギリギリになったら危ないところでした。

 未着手なのが、作品概要、すなわち、あらすじです。WEB小説の場合、サイトに「あらすじ」とありますが、実際には、読んでもらうためにキャッチコピー的なことを書くのが一般的。が、公募の場合は、ネタバレなどを気にせず、本当にあらすじを書きます。

 で、おそらく審査員の方の第一印象は、タイトルとあらすじで決まるのだろうと思うと、実は、ちょっと怖い。概要を読んで、面白味がなければ、本体を読まないとかあるのでしょうか? いかにも、ありそうで怖いです。

 WEBの応募の成績は、ほぼ全滅に近いです。唯一、実績があるのが「転生ジーニアス」という作品。こちらは、カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考を通過しました。このコンテストの特徴として、中間選考は、カクヨムにおけるランキングでまず決まるようです。ですが、こちらは私が初めて書いた作品で、構成やら細かな執筆上のお作法やらができていなくて、今、読み返すと恥ずかしいです。読者様の応援があって中間選考には残りましたが、最終選考を通らなくて、当然というものです。

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 この作品。100万字近くある超長編ですが、ありがたいことに、現在でも読んでいただいています。あちこちのサイトに載せているのですが、ノベリズムで5月19日に日間1位でした。かなりビックリです。

 ちなみに、ミッドナイトノベルズにも掲載していて、ランキングはじりじりと下がりながらも99位でした。 

 ですが、おそらく両方のサイトとも、競争率がかなり低いんですよね。メジャーなサイトのランキングとは、同列に考えない方が良さそうです。

 「転生ジーニアス」については、これで終わりなの? というご感想をチラホラいただきました。今だから書きますと、この作品には歴史小説的要素があり、時代としては鎌倉時代頃のお話です。実際に、モンゴル帝国も登場します。主人公との直接対決はありませんが、フビライハーンも名前だけ登場します。ついては、日本の元寇に主人公を登場させることも、ぼんやりと構想していたのでした。なので、「転生ジーニアス2」セカントシーズンを書けと言われれば、たぶんできます。

 ですが、歴史小説には、書きたいと思っているネタが別にあるので、優先順位は限りなく低いです。

 

 

運命! 運命! 運命!

 先週から、オケの地方公演の練習が始まりました。とりあえず、全曲の譜読みをやったところで、今週は、メインプログラムとなるベートーヴェン交響曲第5番運命を集中的に練習しました。

 この曲は、ある意味有名過ぎて、意外に演奏会で取り上げられない曲なのですが、地方公演では何度もやっていて、今回が3回目くらいの感じになります。ところが、この曲。何度やっても、凄いなと思います。

 まずは、有名な第1楽章ですが、ジャジャジャジャーンというたった4つの音からなる動機で7割か8割がた構成されています。そういう意味では、メロディーがないのです。常識的には、4小節かける4で16小節くらいのメロディーがあるものです。それが、運命の第1楽章では、ひたすらジャジャジャジャーンの繰り返しです。

 その発想は、当時の常識からまったくかけはなれたもので、よくぞこんな曲を書こうと思ったものだと驚くばかりです。

 1960年代頃から、スティーブ・ライヒなどの作曲家が、ミニマル・ミュージックというパターン化された音型を反復させる手法で作曲を始め、作曲界の大きな潮流となりました。個人的には、運命の第1楽章はミニマル・ミュージックの走りなのでは? と思っています。ですが、初演されたのは1,808年なのですよ。100年以上先取りしていると考えると「すごい」としか表現のしようがありません。

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 チェロ奏者としては、以前に指揮者の先生が言っていた話を思い出します。その先生は、大学時代は副科でコントラバスをやっていたそうですが、ベルリンフィルの演奏を生で見たときの低弦楽器がとくにかくすごかったということでした。中でも弓を飛ばす技術がすばらしく、軽々と優雅に弓を飛ばして、松脂がフワッとまっているようだった、というお話がとても印象的でした。

 運命の第3楽章の中間部のフガートの主題を、まずは低弦が提示するのですが、ここの部分を演奏する度に、その話を思い出します。

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 これは、技術的には、スピッカートというやつになりますが、初心者があこがれるけれど、なかなかにハードルが高い技術の典型ですね。コツはいろいろあるようですが、感じ方に個人差があるようで、こうすれば絶対飛ぶみたいなことはなかなか言えません。

 ゴーシュ弦楽器という楽器屋さんのHPに丁寧な説明があるので、これはとてもためになります。興味のある方は、参考になさってください。

gauche-sons.co.jp

 ここの説明にもあるのですが、弓のバランスが悪いと絶対に飛ばないので、どうしてもできないという方は、弓を変えるのも手かもしれません。

 運命の3楽章は、曲想からいっても、フワッと飛ばす感じではなく、かなり重い感じになります。モーツアルトのディベルティメントの伴奏のように、軽くて優雅な感じではないですね。同じスピッカートでもかなりニュアンスに差があります。

 あとは、お国柄もあるみたいで、ベルリンフィルはかなり重厚な感じですが、フランス系のオケなどになると、もっとライトな感じのようです。

 また、運命の話に戻りますと、もう一つ大きな特徴があって、3楽章から4楽章へ切れ目がなくアタッカで続くところです。

 モーツアルトベートーヴェンの時代の演奏会のプログラムというのは、現代とかなり趣が違っていて、多種多様な曲を入れ替わり立ち替わりやるような感じでした。交響曲も、楽章を続けて演奏するのではなくて、バラして演奏するのが普通でした。これを2つくっつけてしまったところは、また画期的な試みだったんですね。逆に、現在の演奏会で、交響曲をバラして演奏することなどないので、想像しにくいですが。

 で、短調の3楽章からPPの橋わたし部分を通って4楽章のハ長調の輝かしい冒頭へ至る部分が、爽快なのですよね。暗くて長いトンネルを抜けると、そこに輝かしい世界があった、みたいな感じは、川端康成の「雪国」の冒頭を思い出させます。

 4楽章の明るい世界を表現するために、ベートーベンは交響曲で初めてトロンボーンを使いました。また、ピッコロも効果的に使われているのが印象的です。

 最後に盛り上がって、速度が速くなり、倍テンポになるところもぞくぞくしますね。

 そんな感じで、運命は、ベートーヴェンの画期的なアイデアがそこかしこに仕込まれた曲なのでした。

 もし、冒頭しか知らないという方がいらっしゃったら、ぜひ最後まで聞いてみることをお勧めします。

 

 

マイブーム再燃 ~ヨハネス・ブラームス~

お題「雨の日に聴きたい曲は・・・?」

 まずは、宣伝です。

 ブラームス交響曲第3番をネタに、短編を一本書きました。5千字弱/10分ちょっとで読めるので、連休のお供にお読みいただけると、とても嬉しいです。

kakuyomu.jp

 この作品。ちょこちょこと私の実体験を混ぜております。よく「嘘に真実を混ぜ込むと真実味が増す」といいますが、小説もフィクションですから同じかなあと。

 で、検索してみたところ、「嘘に真実を……」というセリフは、マンガやらアニメで結構使われているようです。私の記憶が確かなら、出典は名探偵ポアロの口癖的なセリフだったように思います。たぶん、アガサクリスティーは、他人のネタをパクったりはしていないと思うので。

 作品で焦点を当てているのは、もちろん第3楽章のPoco allegretto、ハ短調、3/8拍子の部分です。フランソワーズ・サガンの小説『ブラームスはお好き』に基づく映画『さよならをもう一度』の主題曲として、一気に有名になった作品ですね。また、フランク・シナトラを皮切りに、さまざまな歌手が歌詞をつけて歌ってもいます。

 冒頭でいきなりチェロで提示されるアンニュイな旋律がとても印象的です。あとからヴァイオリンにも引き継がれ、チェロのオブリガート的なパッセージと絡み合うさまは、男女がもつれ合っているかのようです。

 オーケストレーション的には、ヴァイオリンでも十分弾ける音域なところ、あえてチェロでというのがミソですね。まず、音色がヴァイオリンよりもマイルドということもあります。チェロの音域としては高めなので、頑張ってる感が何かを主張しているかのような効果を生んでいますし、女性を口説くときは、声のトーンが自然と高くなりますよね。そんな感じです。

 「アンニュイ」というフランス語ですが、なかなか使い方が難しい単語です。

 主に「物憂げな」、「気だるい」といった意味がメインではありますが、一方で「ミステリアス」というニュアンスも含みます。で、この単語。まさに、この曲を形容するのにピッタリな単語だと、私は思うのです。

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 この旋律。すてきではあるのですが、一方でクサいなと感じることもあります。口説き文句も、あまりに甘々だと、クサくなるのといっしょです。

 個人的には、この旋律は、ブラームスのクサい旋律の双璧をなすと思っております。もう1曲は、弦楽6重奏曲第1番の第2楽章です。

 この曲は、ブラームスがご執心のクララ・シューマンが気に入ったので、自らピアノ独奏用に編曲してプレゼントしたという、いわくつきの曲です。オケの先輩が、この曲を評して「ド演歌」だと言っていましたが、言い得て妙だと思います。

 でも、この曲を作曲したとき、ブラームスはまだ20代でした。ならば、若気の至りで、クサいのも致し方ないかなとも思います。一方で、交響曲第3番は50歳での作曲です。クサいといっても、こちらの方が洗練されていて当然なのです。

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 それで、やっとタイトルのマイブームの話です。私の中ではマイブームが度々あって、これまで様々な作曲家にはまってきました。

 第1次ブラームスブームは、学生時代の頃から。作品的には渋いものが多いですが、ツウな若者の琴線に触れる部分も多々あると思うのです。

 現在の、第2次ブームのきっかけは、所属しているオケで、立て続けにブラームスを取り上げたことにあります。

 まずは、交響曲第3番、さらに、以前からやりたいと思っていて機会に恵まれなかった悲劇的序曲、そして現在、交響曲第2番を9月の本番に向けて練習中です。この曲は、学生時代にも取り組んだ曲で、とても懐かしいことが一つ。当時は、時間に余裕があったので、練習しまくったので、音楽が体の奥に染みついています。時間をおいて成長した今、技術的にも精神的にも、より深い表現ができる期待でワクワクしています。

 さらに、クラリネット3重奏曲です。

  実は、第1次ブームの末期。ブラームスの後期作品に夢中になっていました。

 ブラームスは、晩年に、作曲をするための霊感の衰えを感じ、作曲を取りやめた時期があります。財産整理をして、遺言書まで書き始める始末です。

 そんな彼は、ミュールフェルトという名クラリネット奏者の演奏に触れて、作曲への意欲を取り戻しました。こうして、一連のクラリネットを含む室内楽作品が生まれます。その一つが、クラリネット、チェロ、ピアノによる3重奏曲です。

 このクラリネットとチェロの組合せが絶妙で、何とも言えない物悲しい雰囲気を醸し出します。解説書などによると、「諦観」などとよく書かれているのですが、個人的には、それは決めつけすぎではないかと思っています。

 老成した作曲家の作品が、枝葉を切り捨てられてシンプルになっていく傾向は、他の作曲家でも多く見られます。感情が爆発するような表現は、なりを潜めますが、それを「諦観」といい切っちゃうかなあ。私は、悟りを開いた修行僧のようにも思うのですが、いかがでしょうか?

 で、この曲ですが、いつかやりたいと思っていて、数年前に楽譜は購入済みでした。そこで、偶然、ネット上で室内楽のレッスンをやっている音楽スクールを発見しました。レッスン代も高くないし、講師がメンバーに入ってレベルを維持するとのこと。一度通ってみようかと思い、こちらも練習を始めました。

 そんなわけで、現在は、交響曲クラリネット3重奏曲の2本立てで練習をしています。

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 チェロの個人レッスンの方も、チェロソナタの2番をまだやっていないし、ドッペルコンチェルトもやってみたい。ドッペルコンチェルトは、ブラームス最後の管弦楽作品。ずっとずっとやりたいと思っていて、ときおり思い出して聴かずにはいられない。

 あとはクラリネット5重奏曲もいいし、忘れてならないのは弦楽4重奏曲第1番ですね。これは交響曲第1番と双璧をなす名曲です。交響曲同様に、ブラームスの気合入りまくりな感じの作品です。なにせ、ブラームスが尊敬してやまないベートーヴェン先生の後期弦楽4重奏曲は、神がかっていますからね。あれを意識してしまったら、なまじっかな作品は書けないというものです。

 などと、いろいろ考えていると、ブラームスが止まらない。今はそんな心境です。

 

 

♭でお腹いっぱい ~オケの楽器と調性のお話~

 私は、オーケストラを2つ掛け持ちしています。

 地方公演で、ベートーヴェン交響曲第5番運命を演奏することは前にも書きましたが、こちらはご存じのとおり、ハ短調なので♭が3つ。

 もう1つ小編成のオケに所属していますが、こちらはベートーヴェン交響曲第3番英雄(エロイカ)とシューベルト交響曲第2番というマイナーな曲をやるのですが、エロイカ変ホ長調なので♭が3つ、シューベルト変ロ長調なので♭が2つという調性です。そこでまず思ったのは、似たような調性の曲ばかりやると飽きるなということでした。ちょっと、お腹いっぱいな感じです。

 それとも関連するのですが、楽器には、鳴りやすい調性というものがあります。

 まず、管楽器についていうと、金管楽器がわかりやすいです。実際の楽器は、管をぐるぐると巻いてあって、コンパクトになっていますが、伸ばせば一本の管になります。これはアルペンホルンを見るとわかりやすいです。

アルペンホルン

 長さに応じて固有震動数というものがありますので、ある菅の長さで出せる音は、基本的に、その倍音列に属する音ということになります。管の長さを調整するバルブが発明されるまでは、そう言う制約がありました。

 金管楽器の場合、ピストンを押すことで、本体に付属した管を経由し、管のの長さを調整できるようになっています。半音、1音、1音半相当の三種類があります。この3つの組合せで、本体の倍音列以外の音も出せるようになっているわけです。

トランペットのピストン

 とはいえ、ピストンを押して、付属の管を経由しない方が楽器が鳴りやすいことは事実です。

 楽器によって本体の長さは違っていて、トランペットはB(シ♭)、ホルンはF、クラリネットはB(又はA)などとなっています。

 したがって、管楽器の場合、ヘ長調(♭1個)、変ロ長調(♭2個)などの方が楽器が鳴りやすいことになります。

 このため、ブラスバンドの場合は、チューニングをB(シ♭)でやることが多いですね。

 この関連で、管楽器のパート譜は、実音とは異なる音で書かれているものがあります。例えば、ホルンであれば、in Fで、実音Fがト音記号のCの位置に書かれます。調号もハ長調の場合は#が1個付きます。

 このように、記譜と実音にズレのある楽器のことを「移調楽器」と呼びます。

 指揮者が使用する総譜(スコア)も同様ですので、in F、in B、in A、in Esなどが読めないと指揮者にはなれません。また、移動ドとは違いますが、ハ音記号(アルト記号やテナー記号)も読めなければなりません。

 また、指揮者が管楽器奏者に音を指示するときも、実音Fなのか記譜のFなのかを明示して指示しないと混乱してしまいます。中学校のブラスバンドを教員が指導する場合などに、それで失敗した話をよく聞きます。

総譜(スコア)

 一方、弦楽器については、調弦との関係があります。ヴァイオリンは下からGDAE、ヴィオラとチェロは下からCGDA、コントラバスは下からEADGとなっていて、共通するのはGDAの音です。

 オーケストラのチューニングはA(ラ)の音でするのも、この関係が大きいです。

 弦楽器の場合、弦が4本ありますが、正確な音程で演奏すると、共振現象が起きて豊かな響きがします。GDAが共振するのは当然ですが、その倍音列の音も共振します。G-DーH、D-A-Fis、A-E-Cisなどです。これからわかるとおり、弦楽器は#系の調性で豊かに響きます。

 というわけで、オーケストラは、管楽器と弦楽器で得意な調性が背反している、というジレンマを抱えているのでした。ついでに言うと、管楽器は演奏しているうちに音程が上がっていくのに対し、弦楽器は下がっていきます。こういうジレンマもあったりします。

 以前、あるテレビ番組で、モーツアルトアイネ・クライネ・ナハトムジークは、なぜG-dur(#1個)で作曲したのか、という実験をしていました。正解は、単純に豊かな響きがするから。番組では、試しに1音下げて、F-dur(♭1個)で演奏して比較していましたが、確かに聞き慣れたアイネクライネナハトムジークとは違う感じがします。

 また、弦楽器は胴の部分に音を響かせて鳴らすわけですが、可能な限りいろいろな音が共鳴するように試行錯誤した結果あの形となっています。

 しかし、完璧ということはあり得ません。やはり鳴りにくい音はあって、それはズバリFis又はGesの音です。一番有名なのは、チェロのG線のFisの音で、うまく響かないと音が干渉しあってうねりが生じます。狼が唸っている音に例えられ、これを「ウルフ音」と言います。ウルフ音を緩和するために、弦の駒とテールピースの間にウルフキラー(軽いおもり)をとりつけることがあります。が、ウルフキラーを付けると弦が鳴りにくくなるというジレンマもあり、実は痛しかゆしなのです。 

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 さらに、弦楽器の場合、♭がつくとフィンガリング(指使い)が難しくなるということがあります、特に鬼門なのが3個目のA♭です。ヴァイオリン・ヴィオラの指使いは共通していて、ポジション(弦を押さえる位置)を変えなくても1オクターブを演奏することは可能です。

 チェロの場合、楽器はヴィオラの倍の大きさがあり、フィンガリングも違ったものとなります。開放弦を使わないと、1オクターブを演奏するために、2・3回のポジションチェンジが必要になり、ヴァイオリン・ヴィオラよりも、ずっと難易度はがあがります。3個目のA♭が出てくると、Aの開放弦が使えないため、とても大変なのです。

 有名なのが、運命の第2楽章(変ニ長調:♭が4個)の旋律です。Dにも♭がつくので、AとDの開放弦が使えないという二重苦になります。ヴィオラとチェロのユニゾンで旋律が出てくるのですが、D線のAs付近を上がったり下がったりと、ベートーヴェン先生は、ねちっこくチェロを虐めにかかります。

 旋律は3回出てくるのですが、出てくるごとに変奏され、音符も細かくなっていきます。これも結構いやらしいです。

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 フィンガリングもいろいろと考えてはみるのですが、決定版はなかなか思いつかないですね。ビデオを見ても、演奏者それぞれのフィンガリングをしていてバラバラです。

 実は、これ。オーケストラの入団オーディションの課題曲でも使われることがあることでも有名です。

(ただし、オケの場合、ボウイング(ダウンボウか、アップボウか)は合わせますが、フィンガリングは適度にバラける方がいいそうです。これは、フィンガリングによって、ある音が低め/高めになる傾向が避けられないため、完璧に合わせてしまうと、それが音にあらわれてしまうためです)

 

チェロはオケ界のリベロ説? ~威風堂々のお話~

 6月に、オケで地方へ遠征して、演奏会をやります。素人さん向けのポピュラーな曲ということで、ベートーヴェンの運命をメインに、小品をいくつかやることに。

 

 先週、楽譜が配られましたが、その中に、エルガーの威風堂々第1番がありました。

(余談ですが、威風堂々といえば、第1番があまりに有名。番号が表記さ入れないことも多いですが、実は6番まであるのです:6番は未完で他の作曲家が補筆・完成)

 特に、トリオ部分の旋律が有名なのですが、これを気に入った英国の王様から「歌詞をつけてはどう?」と提案され、歌詞までついてるほど。歌詞は、国を讃える内容なので、第2の国歌とも呼ばれています。

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 原題の「Pomp and Circumstance」は、シェークスピアの「オセロ」の台詞からとったんだそうです。直訳だとPompは「豪華」、「栄光」といった意味。わかりにくいのはcircumstanceで、直訳だと「状況」、「背景」などですが、多義的な意味があって、「儀式ばった」といった訳もあるようですが、そんなネガティブな響きの意味はにあいません。

 pompouslyは「堂々とした」という意味もあるようで、そうするとCircumstanceを「威風」と訳したのでしょうか?

 そんなわけで、「威風堂々」は、かなり思い切った意訳になっています。

 

 この曲。中学校でブラスバンド部に入って、音楽へ本格的に取り組み始めたとき、最初にやりました。とても懐かしい。パッと聞いた感じと違って、アウフタクトから始まるのがトリッキーで、拍を数えるのに苦労した思い出があります。♬|♫♪♬|♫♪♬…こんな感じです。こういうのは、ブラームスさんが得意ですよね。ほかにも、似たような曲を結構やったことがあるので、いつしか慣れました。

 

 それはそれとして、個人的には、エルガーさんの曲は、あまり演奏したことがなく、「エニグマ(謎)変奏曲」(Variations on an Original Theme for orchestra)と「南国にて(アラッシオ)」(In the South (Alassio))くらい。

 これまでの経験で感じたのは、「エルガーさんは、チェロを酷使してくれるよなあ」とうこと。この傾向は、リヒャルト・シュトラウスマーラーショスタコーヴィチなどのロマン派の後期的な作曲家にみられますよね。

 

 チェロは、オケの中では低弦楽器で、コントラバスとともに伴奏がメインのイメージがあります。ですが、音域的にはヴァイオリンと被る高音域まで演奏は可能で、音部記号もヘ音記号、ハ音記号(テナー記号)、ト音記号の3つが出てきます。

 初心者がまず戸惑うのはハ音記号(テナー記号)ですね。慣れるまで結構たいへんだった記憶があります。ヘ音記号とテナー記号はちょうど五度違いなので、超初心者の頃は、ヘ音記号で読んで隣の高い弦を弾けばいいといった、姑息なやり方もしていました。

 今ではまったく違和感なく読めるので、「あれっ! 今弾いてるのは、ヘ音記号? テナー記号? どっちだっけ?」みたいにボケることもあります。

テナー記号

 そういえば、以前、ラベルのダフニスとクロエ組曲をやったとき、パート譜ヘ音記号で8va…(8va alta:8度高く)というほぼ見ない記譜があったときは、感覚的についていけなくてたいへんでした。かえって、テナー記号の方が楽というもの。

 

 で、作曲家の話に戻りますと、チャイコフスキードヴォルザークなどのロマン派の作曲家になってくると、単独で旋律も担当することが増えてきます。古典派のパート譜は、チェロ・コントラバス共用(コントラバスの実音は、記譜よりも1オクターブ低い)が多いのですが、ロマン派になると別々になります。

 

 さらに、ロマン派も後期になって20世紀前後になってくると、オーケストレーションの技術がだんだんこったものになってきて、オケにおいてチェロは酷使されます。

 以前にもブログで書いたとおり、ハイポジションの高音を平気で弾かされますし、オケの中でも役割も、旋律だったり、中音域での分散和音だったり、低音部での伴奏だったりと何でも屋状態です。

 威風堂々もそんな感じで、幸い超高音は出てきませんが、メインの旋律を弾いていたかと思うと、その隙間でトロンボーンコントラバスなどの低音楽器とともに別な動機を弾き、またすぐにメインの旋律に戻るといった感じで、目まぐるしく駆け回る感じです。

 サッカーで言うと、ディフェンダーでありながら、攻撃にも参加するリベロみたいだなあ、と個人的には感じているのですが、共感は得られるのかな?

 

 いろいろな役割をするというのも、変化があって面白いです。威風堂々のトリオの旋律の部分も、チェロは最初は四分音符をきざんで伴奏をしていて、途中盛り上がり始めるところから旋律に参加します。

 旋律もいいですが、伴奏も、それはそれでこだわりがあります。旋律に寄り添って、ふさわしい雰囲気が出せているか? できているか否かで、曲の完成度がまったく変わります。

 練習はこれれからですが、今から楽しみです。